ふつうのくらしマガジン

残念な結果になることが分かっている「無理ゲー」のような人生からみんなと抜け出したい。団体立ち上げに懸ける想い

はじめまして。このたび「ふつうのくらし(Decent Life Japan)」を立ち上げた、あずみと申します。
ふつうのくらしは、だれもが働いてまっとうな暮らしを得ることができる社会を目指して、非正規シングル女性のエンパワーメントをする団体です。

代表清野近影

私がこの団体を立ち上げた背景には3つの事情がありました。
一つ目は、大学を卒業しても充分な収入を得られない人が、自分を含め周りに多くいたこと。
二つ目は、多くの人にとって、貯金をしても貯金をしても、老後資金をためるのが難しいことに気が付いたこと。
三つ目は、年齢や経験を重ねるにつれ、様々な男女格差や「ガラスの天井」が見えるようになってきたことです。

これら3つのことについて、詳しくお話させてください。

同級生の就職はO人。友人の半分は大学を卒業したのちに行方知れずに

大学時代、私はある大学の芸術学部で学んでいて、同じ専攻には10名程度の学生がいました。学年が上がるにつれアトリエ(制作室)で長時間実習をするカリキュラムになっているので、多い時には1日12時間ほど彼らと同じ部屋で過ごしました。

そんな、結びつきの強い専攻でしたが、卒業時に就職した人は0人でした。5名ほどが進学、のこり5名ほどが就労しませんでした。

当時は、ITバブルが終わり、リーマンショックが始まったとき。その年の芸術学部の学生の就職率は47.8%でした。(学校基本調査平成19年3月のデータより)

就職ができなかった友人とは、卒業とともに連絡ができなくなりました。
私はその時、就職も進学もしなかった学生です。そこから生活費と次年度以降(次の年に進学をするつもりでした)の学費を稼ぐため、学習塾、居酒屋、早朝のコンビニ、写真スタジオ、イベントの派遣スタッフ等様々なアルバイトを掛け持ちする生活が始まりました。

そんな中で、様々な人に出会いました。
大学を出たけれど就職がなくアルバイトや契約社員を続けているスタッフ・店長。昼の仕事では収入が足りないので夜の仕事と掛け持ちする若い女性。久しぶりに街で会った大学の後輩は、正社員就職をした会社で心身ともに疲れ果て、携帯ショップで契約社員として働いているとのことでした。

ブラック企業、名ばかり正社員などの単語が一般に広まり、正社員の雇用の劣化が顕著になったのもこの頃です。なお、同じころ年越し派遣村などの取り組みも始まり、非正規社員の厳しい暮らしが全国的な話題となりました。

収入の50%をためても、月8万円で生活をしても、老後資金はたまらない。


さて、そんな私ですが、数年だけ正社員(と同等程度の給料)で働いたことがあります。2012年から2013年の2年間だけ、フルタイムの教員として働いていました。その時、人生で初めて貯金をする余裕ができました。お給料や初めてもらったボーナスは、それまで8年近く払えていなかった国民年金約100万円分に消えていきました。なお、借りていた奨学金200万円分はこの時には返済できませんでした。

ところで、教員が長時間労働で過酷な職場であることは近年広く知られるようになってきましたが、私の職場も例にもれず多忙な職場で、2年目の学校では長時間労働から体調を崩し、退職を余儀なくされました。

私自身はその後、ほとんどの期間を契約職員として、1年単位の契約の更新を続けながら働いてきました。

これまでに受けてきた給与水準の関係で、もしこのまま運よく働き続けられたとしても私の年金は月8万円程度です。これでは、老後資金を大量に貯めないと生活ができません。しかも奨学金はずっと返済猶予(先送り)を繰り返し、少しも返せていない状況です。

人生100年といわれている時代、65歳~100歳まで私の老後資金を貯めようとすると、約3000万円の貯金が必要になります。

一方で私の収入では、収入の50%を貯金しても、家賃込み・電話代込みで月8万円で生活をしても、老後資金は足りず、奨学金は返済できない計算になります。

20代で就職をしてから毎月老後資金の貯蓄に励み、爪に火を点すような節約を重ねながら、まるで「無理ゲー」(難易度が高く攻略が難しいゲーム)のような人生だなあとしみじみ感じていました。

ところが、少しでも貯金ができている私はまだましな方で、平成29年度の家計の金融行動に関する世論調査では、いわゆる「貯蓄ゼロ世帯」(金融資産の保有がない世帯)が人口の3割以上います。年収が300万円以下の世帯だとその割合は4割近くになります。多くの人が、低所得で、貯金をして、生活の安心と安定を保つことが難しい状況です。

結婚を前後して見えてきた、ガラスの天井とジェンダー規範

そんな中、2016年にご縁があり結婚をすることができました。経済的に安定し「これで生涯屋根のある所で暮らせる…」という安心感も得られた一方で、世の中にある様々なジェンダー規範も見えてくるようになりました。

例えば、夫の転居や妊娠・出産等で職業人としての生活が中断することを前提に職場での道が作られたり、「仕事はいつまで続けるの?」「家事はちゃんとできてる?」など、性別による役割分業を前提とした質問を多く受けるようになりました。介護役割を担うことへの期待も明に暗に感じます。そんな日本のジェンダーギャップ指数は144か国中114位で(2017年) 世界でも低いレベル。多くの女性が経済的・政治的不平等を感じています。

もう一つ、結婚がゴールでよいのかという疑問もふつふつと感じるようになりました。例えば、主婦でいれば生活が安泰…というのは本当なのでしょうか?

現代の日本では3組に1組が離婚すると言われています。一方で、パート労働で低賃金で働く主婦もたくさんいます。例えば「夫に食べさせてもらっているから…」「夫に捨てられたら生きていけないから…」と、言いたいことも言えず自分を抑圧させて生きている女性もいるかもしれません。(そう考えていた折にネットでこちらのエッセイが話題になり、内容に衝撃を受けました。)

そもそも安定した収入の職業につけない。
働いていても十分な収入が得られず、老後資金も貯められない。
ジェンダー規範により、職業人として自立の道が狭められている。

そんな「無理ゲー」のような人生から抜け出したい。そして、同じような人生を送っている人は大勢いる。そのとき、ここから抜け出すために、みんなで頑張ることができるのでは、と思い立ちました。

ふつうのくらしの歩みは始まったばかり。まずは団体をしっかりさせて、ふつうのくらしを得るための歩みを描いていきます。

そんな思いが芽生えたこと、2018年1月にNPO創業のフォーラムに参加。まずは「非正規シングル女性の支援団体を作りたいんです」と参加の方に話してみました。
世間のニーズはとても高かったようで、あれよあれよといろいろな方にお声掛けをいただきました。無事、この3月には初の説明会ができそうです。私たちの歩みは始まったばかり、ここから、みんなでふつうのくらしをどうやって手に入れていったか、参加者のストーリーをつむげるように努力していきます。

2018年3月吉日 ふつうのくらし 代表
清野あずみ 拝